将棋の序盤では桂馬を動かすことは、まずありません。桂馬の高跳び歩の餌食とか言いまして、いきなり動いても取られるだけです。というのは、動ける場所が限られているからです。逆に言うと、この桂馬が跳んでこれる場所というのは注意すべきマス目とも言えます。しかし相手の桂馬を奪って持ち駒にしておけば打ちたい場所に打てます。うまく奪うこと、あるいは奪われないようにすること、ここが強い人はすごいですね。

初代名人の大橋宗桂は桂馬の使い方がうまいので宗桂と名乗るようにと信長から言われたという伝説があります。現代では藤井さんの桂馬の使い方は芸術的です。次の例は第91期棋聖戦の第4局です。先手が渡辺棋聖、後手が藤井七段です。左下の桂馬はここまで動いていません。藤井さんは歩を打って取りに行きました。

次はその桂馬を取ったところです。と金ができましたが、これには手出しができません。渡辺さんにはきついです。

さらに進んで桂馬を打ったところです。渡辺さんの玉は左辺への逃げ道を完全に封鎖されました。右辺も自分の金と飛車でふさがれています。あとは藤井さんの玉を先に詰ませるしか勝つ道はないのです。

しかし藤井さんは渡辺さんの王手ラッシュから逃げ切ります。最後にまた桂馬が合い駒として登場し渡辺さんの望みを断ち切ります。かくして史上最年少の17歳のタイトルホルダーの誕生となりました。いやあ、桂馬だけ見ていてもかっこいいですね。

渡辺さんの話では、藤井さんの将棋ではかっこいいところに桂馬が落ちているというようなことを言っていたと思います。なかなか普通の人では考えつかないところですね。この頃では驚きの表現がネタ切れになって、藤井さんって普通に強いねという感じになっていますけど。いったいどこまで強くなるのでしょうね。