なにはともあれ実戦だという人には棒銀と四間飛車がおすすめと言われています。まず攻めるという人には棒銀、まず守るという人には四間飛車という話のようです。一度にいろいろと教えられても覚えられません。最低限のことを教えるべきでしょう。まず攻めるという棒銀は、飛車の前の歩を突きだしていき、銀を押し出します。この銀が突入して飛車が暴れまわる地ならしをするという考え方です。守りの方ですが、角の前の歩は無防備なので金を上げて守ります。これが最低限の守りです。ちなみに、銀を上げると角が守れなくなります。
一方で、王様を取られたら負けなのでまず守りたいという人には四間飛車がお勧めと言われています。玉を飛車がいるところに移動させたいので、飛車を左に振ります。次に玉を飛車がいたところまで移動させたら、銀を上げて、さらに左の金を斜めに上げると美濃囲いのできあがりです。これで守備は万全だと思って攻撃に専念しましょう。左側の飛車角桂香と銀をじゃんじゃん使って敵陣に突進します。
それだけじゃないだろうという声もあるでしょうが、とにかく実戦という人にはこの程度で始めるのが良いのかもしれません。もっとちゃんと学んでからという人には、それなりに。
もう少し具体的な例を見てみます。これは伊藤果先生の「将棋の初歩の初歩」というテキストにあったものです。
ここでは、相手の歩を取るのに香車ではなく銀で取るのがポイントです。一般には銀の方が価値が高いのですが、この局面では香車のスピードが非常に価値が高いということのようです。とはいえ、習い始めた時には主役のはずの銀を捨ててしまうのが衝撃でした。棒銀とは主役の銀を犠牲にして敵陣を突破する戦法かと思い込んでしまいました。ちなみに、テキストでは次の局面まで説明して、これにて先手の必勝と結論しています。こんなにうまくいくのか。これは相手が緩めてくれていますね。
考えてみると、銀や歩が各駅停車なら香車や飛車は特急ですね。銀が道を切り開いたおかげで、次のように飛車が一気に敵陣深くに突入して竜になっています。
余談でありますが、棋譜ならべが苦手という人も少なくないようです。その原因は通常の棋譜では移動元のデータが隠蔽されていることです。どこから来たんだと探すのが大変です。そこでアシスト棋譜として移動元を書くことを提案します。こうすれば先手後手の区別や駒の種類は不要になります。持ち駒を打つ時には先手(Top)と後手(Bottom)の別をT歩とかB歩のように書きます。また成る(Reverse)と成らず(Stay)の違いは末尾にRかSをつけます。ちなみに、上のテキストの例は次のようになります。
77-76 83-84 27-26 84-85 26-25 41-32 88-77 33-34 79-88 22-77R 88-77 31-22 39-38 22-33 69-78 71-62 38-27 73-74 27-26
13-14 17-16 62-73 16-15 14-15 26-15 11-15 19-15 B歩-13 T歩-12 33-22 59-68 51-42 T香-19 93-94 12-11R 22-11 15-13R
21-13 19-13R B歩-12 13-23 32-23 25-24 23-33 24-23R 33-44 23-33 42-33 28-21R
どうでしょうか。移動元を探す手間はなくなりますが、意味が取りにくくなるのは仕方ないです。自転車の補助輪と同じです。自分で理解できるようになればアシストは邪魔になるのです。しかし、倒れてしまうレベルの人にはアシストを提供するべきではないでしょうか。
ひふみんアイという言葉があります。相手の立場から見れば違った景色が見えるということです。四間飛車はカウンター狙いと言いますが、たとえ美濃囲いが未完成でも相手がスキを見せればすかさが突進するべきだということです。将棋世界2017年4月号のp120にある棒銀の講座を見ると逆の立場から見た四間飛車にとっての千載一遇のチャンスが書かれています。アシスト棋譜で書くと次のように始まります。 77-76 33-34 27-26 43-44 39-48 82-42 26-25 22-33 ここまでは問題はありません。ここでは相手が強力な飛車を持ってきていることを意識して棒銀で攻める前に自分の玉を守る必要があると書いてあります。
それでは、自分の玉をそのままにして棒銀を突進させたらどうなるでしょうか。強力な飛車を無視して攻め込みました。これはカウンター攻撃のチャンスを与えたことになるのです。アシスト棋譜では次のようになります。 37-36 31-32 48-37 51-62 37-26 62-72 36-35
後手はこのチャンスを逃してはいけません。歩を突きだし角を交換して突撃です。アシスト棋譜ではこうなります。 44-45 35-34 33-88R 79-88 45-46 こうなると先手の王様は風前の灯です。そういうわけで、四間飛車ではまず守るという考え方ですが、相手がミスをしたら見逃さずにカウンター攻撃を仕掛けることが大切なのです。
ところがですね。棒銀と言えば加藤先生ということで加藤先生と中原先生の実戦例を見ると全然違うではありませんか。自陣の一段目を見れば銀を捨てたらいけないことは明白です。赤丸のところに割打ちを食らったら終わったようなものですね。もちろん加藤先生は銀を捨てたりはしません。どちらかと言えば見せるだけで存在感を発揮する見せ銀と言えそうです。これは相手が四間飛車だったからこちらが居玉ではカウンターを食らうので金無双に囲ったという話のようです。これと最初の例の角換わりからの捨て銀とは全然違う気がします。一緒くたにして棒銀と呼ぶのはどうなんでしょうか。
ちなみに、あの藤井さんも少年時代には棒銀ばかり指していたとの師匠の話があります。次の例は8歳の時のものとか。ここでは銀を交換することになります。一口に棒銀と言っても捨て棒銀・見せ棒銀・銀交換といろいろな戦い方があるんですね。ちなみに、銀や歩が各駅停車だと考えると飛車や香車は特急です。しかし手持ちの銀はどこにでも打てますので飛行機のようなものです。とはいえ打ってしまえば各駅停車に戻りますので、空港からのアクセスが問題という話ですね。
さて、将棋世界の講座ともなると難解です。とりあえず基本図というところまで紹介しておきます。アシスト棋譜では、77-76 33-34 27-26 43-44 39-48 82-42 26-25 22-33 と進めると次のようになります。
さきほどの悪い例では、すぐに棒銀を突進させたのでカウンターを食ってしまいました。ここでは、まず舟囲いに玉を囲います。アシスト棋譜では、57-56 31-32 59-68 51-62 68-78 71-72 49-58 62-71 37-36 71-82 97-96 93-94 と進むと次のようになります。
ここから難しくなります。いろいろと解説が書いてありますが理解できないのでカットします。アシスト棋譜では 79-68 41-52 68-57 32-43 69-68 53-54 と進むと次のようになります。
これって金無双という形とは違うんでしょうかね。その次に振り飛車から6筋の歩を突かせて理想形にさせないという話があります。へえそうですが、とか言いようがありません。とりあえずアシスト棋譜では次のようになります。 48-37 13-14 17-16 11-12 47-46 63-64 37-26 42-32 36-35 と進むと次のようになります。これが基本図だそうです。
さて、さすがは将棋世界、ここまでは入り口にすぎません。ここから本論が始まるのですが、もちろん全然理解できないので、すべて省略します。さあ、頑張って入り口までを理解できるようになりたいものですね。
棒銀というと初心者向けとは限りません。第16回朝日杯決勝の先手藤井竜王vs後手渡辺名人(ともに当時)では先手の藤井さんが棒銀を指しています。アシスト棋譜では次のようになります。 27-26 33-34 77-76 43-44 26-25 22-33 39-48 31-42 37-36 41-32 59-68 83-84 48-37 42-43 88-77 61-52 49-58 71-62 37-26 53-54 36-35 ここまでで棒銀になります。
このまま棒銀が敵陣に突入とはなりません。なにしろ竜王と名人の頂上決戦ですから。 33-42 35-34 42-64 と進んで次のように角で飛車を狙います。
もちろん飛車を取らせるわけにはいかないので、出て行った銀を戻します。 26-37 62-53
戻った銀は角のラインをふさぎながら中央に進みますが、後手も銀を繰り出してきます。 37-46 43-34
いよいよ飛車の活用をはかっていきます。 25-24 23-24 28-24 32-23 23-26 B歩-24
このあとは中央での戦いとなります。さすがは頂上決戦だねと言っておきます。 29-37 21-33 68-78 73-74 79-88 81-73 T歩-35 34-43 57-56 74-75 56-55
さらに本館的な戦いのようです。 75-76 77-86 54-55 T歩-74 73-85 86-64 53-64 T角-73 64-73 74-73R 82-92 72-83 92-62 83-73 62-92 73-83 92-62 46-55
さらに戦いは続きます。 B歩-58 58-68 B角-65 83-7362-92 T歩-53 52-53 T銀-56 B角-15 26-46 65-54 55-54 53-54 46-36 57-58R 69-58 B歩-57 58-57 で次のようになります。
このあとはおしまいまで。B銀-27 T歩-55 54-64 17-1627-36S 16-15 B飛-5973-82 76-77R 89-77 85-77R 88-77 B桂-85 82-92 85-77R 68-77 59-57R T飛-81 51-42 T角-31 42-32 T角-21
そういうわけで最後まで見てみました。トップの棒銀というのは、こういう感じなのか。と鑑賞しました。さて、藤井さんが岡崎将棋まつりで勇気さん相手に棒銀居玉という作戦を指しています。銀が2六まででて、そこで居座るのですね。終局まで居座る。それだけで存在感というのでしょうか。